<中和反応>

今日もいつものやつが始まることを考えると憂鬱だ。

その憂鬱の根源は、職場の両隣の男社員。

私の左席は70歳のおじいさん(加賀さん)。
定年退職後、シルバーセンターから派遣されている。
余生の充実と小金稼ぎのためにこの職場で働いているらしい。
この歳で、流行りにとても敏感なおじいさんである。

そして私の左席は23歳の若手社員(川田さん)。
対照的に流行りと逆行する男。

そしてその間に挟まれているのが私(田中)。
ちなみにインフルエンサー↑。
SNSのフォロワーは数万越え。
インフルエンサー↑であることは隠している。


職場に入ると、早起きでいつも一番出社の加賀おじいが私に話しかけてくる。

「田中(私)さん今日早くない?
誰も来てないかと思ったのに。
えまって、朝だからまだ普通に今ビジュやばいかも。」

(朝とは思えないテンション…しかもビジュって、、おじいさんとか皆顔同じじゃん。)

「おはようございます。全然やばくないと思いますよ。」

「もぉ何?知ってる!」

(何この茶番…)

朝から眩暈がしそうになっていると、右隣の席の男も出勤してきてボソッと呟いた。
「おはようございます。」

加賀おじいが口を開く。
「おはみー。え、てか待って。普通に笑う。その格好何?素材何?」

ここから、いつものような二人の会話が始まるのだ。

「素材は分からないですけど、モンペです。」

「モンペ無理w
 半濁音やばw
 うち服装何でもOKとはいえさすがに笑。時代止まってる?」

「人の格好に文句つけるなら、お言葉ですけど、加賀さんもそのボサボサした頭何ですか?」

「えっ、知らない?

マッシュ。

普通のマッシュじゃないよ?アンニュイ系のマッシュ。
若いのに今の時代ついてこれそう?

髪型で言うなら川田くんその角刈りの鋭角さすごいよ?
食パンマン崇拝してるとかだったらごめんね」

(70歳アンニュイ系マッシュもだいぶよ…)

二人に声をかける。

「始業前に二人ともやめて下さい。そろそろ仕事始めてください。」

そう言うと二人は、とぼとぼと席についた。

(何で毎日こんなマッシュおじいとモンペ男に挟まれて、うだごとを聞かなきゃいけないの。
私は数十万フォロワーもあるインフルエンサー↑なのに。
顔出してないし、バレたくないからもちろん言わないけど。)

-昼休憩-

「ねぇ、川田くんの今日のお弁当何?」

(うわまた突っかかろうとしてる。)

「塩おむすびといりこです。」

「おむすびwいつの時代ワロタw
そちらの時代ではいとをかし?
いとをかしあはれなりすぎて無理w」

「食べ物にワロタとかないと思いますけど。」

「え、ごめん。もう一回待って。
 その茶色の葉っぱの包み紙みたいなの何?紐もついてる。
 裸の大将でしか観たことないんだけどw」

「観たって、加賀さんは裸の大将と同じ時代を生きた人ですよね。
 じゃあ、加賀さんの昼ごはんは何なんですか?」

「私?

りんご飴。

紅茶の粉がついたやつ。多分ダージリンかな。」

「何か、、流行りに乗るのに必死で大変そうですね。食べにくそうですし。」

「大変?
 ごめん、素で着いていけちゃってる感じかな。」

リンゴ飴をボリボリ噛み砕きながらアンニュイマッシュおじいは言った。

(昼休憩中までやめて。イヤフォンして食べよ)

ー数分後ー

加賀おじいが口を開く。
「ねぇ田中さん何聴いてるの?」

(うわ、私にまで突っかかってくるじゃん)

「えっと、、何か日本のランキングtop100みたいなやつ聞いてました。」

「あ、日本のやつね。
 私洋楽のEDMとかしか聞かないから日本のあんま分かんないんだよね。
  あっ、EDMって言っても古臭いやつじゃないよ?チル系のやつね。」

(人に聞いといて自分語りしたいだけやん…)

「ねぇ川田くんは、どうなの?音楽って知ってる?何か聞いたりするの?」

「聞きますよ。リンゴの唄、ザ・ピーナッツの恋のバカンス、関白宣言ですね。」

「ですねってどういうこと…?
その3曲だけ?」

「はい。」

「何その3曲縛りループwしかもリンゴw
 私のりんご飴の伏線回収してくるのやめてw

川田くん、もしかしてさ、時代に逆行してる俺かっけえとか思うタイプ?」

「そんなこと全然思ってませんけど。。
 加賀さんこそ、その歳で流行りに着いていってる感出しても無理ありますよ。
 カラオケで流行りの曲覚えて、部下の前でドヤ顔で歌うタイプですよね。
 そういうの反応に非常に困るんですよ」

(煩くて全然休憩にならないし。
私に聞いてからどんだけ話飛躍してるの)

お二人とも休憩終わりますよ。

(よし決めた。流行らせよ。)

ー次の日ー

いつもの如く先に出社していた加賀さんが、私の席に来て話しかけてきた。

「おはみー。」「何見てるの?」

(相変わらずだな。そしてやっぱ反応した)

「おはようございます。
 何かこういうの最近流行ってるらしくて見てました。」

「流行り?何何??見せて!」

加賀おじいは食い気味で私のSNSアカウントを覗き込む。

「なんか、たまたま見つけたフォロワーめっちゃ多い人なんですけど。

 今と昔を組み合わせたレトロモダン系のファッションだったり、昔の曲をEDM系でリミックスしたり。
 このファッションとかも昔のやつですけど、今風に昇華してるみたいで。
 あ、これとかこの前、川田さんが着てたモンペみたいな服に似てるやつ。

 めっちゃコメントついてますね。多分流行ると思います。
 てか今キテますね。」

「ふーん。
 なるほどね。後でちゃんとみてみる。」

-昼休憩中-

加賀おじいが唐突に口を開く。

「川田くん、
 そのモンペ、よく見たら意外と可愛いじゃん。
 古いものの良さっていうのもあるしね」

「はい?
 そうですか….」

「なんかさっきはごめんね」

「あ、いえ」

そうしてその日から、少しだけ職場に平和が訪れた。

しかしながら、次の日からアンニュイマッシュのモンペおじいが誕生し、
集中できず私はこの会社を辞職した。

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