<泡沫のリスト>

僕は、会社では目立たない存在だ。

しかしSNSでは加工アプリで輪郭や肌を整え、筋肉を盛ったアカウントを持っている。
もちろん身バレが怖いので、完全に顔は出していない。


それでも世の中には珍しい人がいて、
リンクを載せたほしい物リストから、プレゼントを送ってくれる。


僕は、
「プレゼントありがとうございます。」
と送る度に、罪悪感というよりも軽い優越感を覚えていた。





ある朝職場で、上司の江藤さんが言った。
「そのタンブラー、そんな色なんだ。」

一瞬、心臓が跳ねた。

このタンブラーは昨日、ほしい物リストから匿名で届いたばかりのものだ。

「そんな色  っていうのは..?」

「いやいや、そのタンブラー有名なやつだよね。
俺も買おうと思ってネットで見てたけど、実物はそんな色味なんだなと思って」

「あ、そういうことですね。結構使いやすいですよ」

「それはよかったね。」


僕は胸を撫で下ろしながらも、
休憩時間に最近の出来事を振り返る。



筋トレグッズが届いてからも、急に筋トレとかしてるの?と聞いてきたな。
そういえばDMで届くメッセージの絵文字も、考えてみれば江藤さんがよく使うものだ。


“SNSとかやってるの?”
“休日何やってるの?”


そんな些細な会話が、妙に探られているような気がして不安になってきた。


…..バレてる?
訳ないよな。
2割程度、いや正直だいぶ加工している。



アカウントを消そうかと考えたが
せっかく欲しい物が貰えるし、今更やめられない。





それからしばらく何もなかったのだが、
社内で江藤さんが結婚するという噂が広まった。

え、結婚? 女性と?

正直驚いた。

それを本人の口から聞いたのは、送別会の少し前だった。

「急に決まってね。
まぁ人生ってそういうもんなんだな。」
と和やかに話しかけてきた。

その時、心の奥で何かがすっと軽くなった気がした。

無駄に考えすぎたな。変に眠れない日もあったし。
気にしてることは意識しすぎるっていうのは本当だな。

大きく息を吐いて、集中力を取り戻し仕事に戻った。





そして送別会の日。

ほろ酔いの江藤さんが、隣の席に来てぽつりと言った。

「そういえばさぁ、結婚前までSNSで気になる人がいてな。」

「へぇ、そうだったんですか。」

「投稿もいい感じで、ゲスだけど身体もよくてさ。」

「はは、それは。」

「入れ込みそうになったんだけど、
ある時 “現実とは違う” って気づいて、急に冷めてさ。」

「…….。」

「まぁそんなもんだよな、いい勉強になったよ。身体から釣られちゃダメだよな。」


江藤さんは笑って話していたが、目の奥は笑っていない気がした。


「江藤さん、飲み過ぎですよ笑。」
と振り絞った僕の答え方が自然だったかは分からない。



それから江藤さんは別の席に行き、誰かと笑っていた。



目の前には空になったグラス。


笑い声だけが、やけに遠くに聞こえた。








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