<見えない機会>

三回目が始まりそうな気がしていた。


一回目は昼のカフェ。
二回目は夜の軽いディナー。


拓と諒平は、お互いを恋愛として意識していた。

ただ、相手が同じ気持ちなのか、
どちらも確信がなかった。

拓は、普段は自分から誘うタイプだった。


けれど今回は、確かめたかった。


諒平が自分のことを好きなのか。
それとも、遊びのうちの1人なのか。



拓はスマホを開き、ChatGPTに相談する。

「今こういう状況なんだけど、相手が本気か知りたい。何か方法ある?」


すぐに出力された。


ー 普段はあなたから誘うのですね。
  相手の気持ちを確認したい場合、相手からの連絡を待つのも有効です。


拓は小さく笑った。

「まぁ…そっか。」


向こうからアクションがあればきっと。

そうして、拓は自分からの連絡を控えた。


同じ頃、
諒平もまた、スマホの画面を見つめていた。

「気になってる人がいて。
結構誘ってくれるのですが、急に連絡が来なくなりました。

自分が送信したデートの感想が最後です。

自分はぐいぐい行くのが苦手で…正直自信もないです。
何か追加で送った方がいいですか?」


質問ボタンを押す。
少しして返答が出る。


ー 相手が普段積極的な人なら、仕事などで忙しいだけかもしれません。
追いラインは逆効果になりやすいです。
趣味などで気を紛らわせて、急かさず相手のペースを尊重しましょう。
大人の余裕が印象を上げますよ。」


諒平は息を吐いた。

「そうだよね。
重いって思われたくないし。

気分転換に、中学の頃にやってた書道でもやろうか。
確か押し入れの奥に、筆があったはず…」


翌日、諒平は足りない書道用品を買いに行き、気を紛らわせることにした。



拓のスマホは、依然として静かなままだった。
通知はもちろん来ない。


拓も、諒平だけに意識を向けすぎないためにアプリを開く。
画面の顔たちを漠然とスクロールして決める。


会う約束をして、知らない誰かと夜を過ごす。


けれど、何も残らない。



諒平は正座をし、1人で墨を擦った。


部屋に、匂いが広がっていく。


「懐かしいな。
昔は何も考えず、単純で良かったな。」


筆をゆっくり握る。


記憶の時間だけが過去に引き戻されていく。


気づけば、
お互い連絡をやめてから1か月近く経っていた。



拓は一度自分から何か送ろうと思ったが、
ここまで来て今更というのがあった。

何より「俺からの連絡がなくても平気なんだな」と思えて、
結局何も送らなかった。


夜の帰り道。

拓は、名前も思い出せない相手と別れたあと、立ち止まる。

ポケットの中は、寂しい。


スマホを取り出しかけて、やめた。


ふと空を見上げた。



『好きだったんだけどな…』




同じ頃、
諒平は新しい半紙を机に置いていた。


墨のついた筆を持ちあげ、ゆっくり息を吐く。



半紙の白さだけが目に残った。



『好きだったんだけどな…』




腰を入れ直すも、
筆先は紙の上で浮いたままだった。







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