<きっかけなんて>

25歳地下アイドルの私。
飲食店のバイトがやっと終わり、この後は歌練の予定だ。

バイト疲れたなぁ。今日は歌練さぼっていいよね。クレーム対応も頑張ったし。

そう自分に言い聞かせ、バイトを頑張ったご褒美にコンビニでプリンを買うことにした。

目的のプリンがなく、二番手の生プリンに手を伸ばした。
(何でも生をつければ美味しく見えるかと思ってさ。)

会計を済ませコンビニを出ると、
店先のベンチに薄汚れた服を着た老婆が座っていた。
こちらをじっと見ている。

なんか面倒臭い嫌な予感がするな….

話しかけられないようにスマホに目をやり、早歩きでその場を去ろうとする。

しかし老婆はこちらの感情を汲み取る気配もなく、かすれた声で話しかけてきた。

「あの、三つ先の駅まで行かなければならないのです。電車代くれませんか?
 私ずっとご飯食べてないです。」

やっぱ浮浪者か。電車からのご飯の文脈おかしくない?
しかも何で私…?プリン買ったから?
私も自分のことで精一杯なんですけど。

そう思いながら苛立って、
三つ先の駅ってどこですか?何しに行かれるんですか?
と、おばあさんの矛盾を突こうとする言葉が口からこぼれた。

おそらくご飯代プラスアルファが欲しいってだけなんだろうな。
私も私でわざわざ聞いて面倒いな。


急に我に返る。

案の定その老婆は、頭の中からもぞもぞと無理やり答えを引っ張り出そうとしている。

苛立ちながら待っている間、
ふと、似たような状況をどこかで見たことを思い出した。



….そうだ、以前見たあのドッキリの番組だ!
“もし道でお金のない人が声をかけてきたらどうするか” という性格をみる企画だ。

その時もこんな感じの老婆だった気がする…

これって、もしかして?
でも私地下アイドルだしドッキリ仕掛けられるほど?
ローカル番組には出演したことはあるけど。最近抜き打ちでアイドルにドッキリとかたまに見るし…


そうだったら嫌だな。この先、性格悪いアイドルというレッテル。。
そう即座に考えた結果、口角を上げて老婆に言った。

「どこに行くか言いたくないなら大丈夫ですよ。」



手元の財布を開けると、千円と五千円札が入っていた。
千円を渡そうと思ったが、さっきの発言を取り戻すかのように、自分には決して安くない五千円を手に取った。

「これだけしかないですが大丈夫ですか?」
優しく老婆に差し出した。

「こ….こんなにいいのかい?」

老婆は謙虚な言葉とは裏腹に、茶色に汚れた皺皺の手をすぐさまこちらに伸ばしてきた。

私は表情が変わりそうなのをこらえて、決め台詞を放った。

「気をつけて行かれてくださいね。」

自分の中にある最大の微笑みとともにその場を後にした。


お婆さんと離れてから20mほど歩く。

どこから撮られてもいいように頭頂から爪先まで意識して歩く。



カメラ….来ないな….
ネタバレって普通もっと後の方?

ドッキリでしたーと言われた場合のコメントを考える。

”全然ドッキリと気づきませんでした(> <)、お婆さんが困っていたので(> <)”
というフレーズを頭の中で練習しながら2分ほど我慢して歩く。




しかし何も起こらない。




やっぱ自意識過剰なだけじゃん。
冷静に考えたらそうじゃん。
私みたいな地下アイドルにドッキリかけるわけないじゃん。
アホらし。

振り返ると老婆はもういない。

まだこの近くにはいるはず。
探し出してお金返してもらう?
喜ばせておいて返してもらうのは流石に非情?
でも5000円….今日のバイト代無駄になるじゃん…..

何気ないそぶりで辺りを見渡すが、やはり老婆はいない。
キョロキョロしてるのを撮られてたら?

まだドッキリ説を考えている私がいる。

もう何なの…

やり場のない苛立ちと虚しさ。
居場所のないプリンを持って帰宅した。


ー  三日後  ー

バイト帰りにいつものごとく歌練をサボってコンビニに寄ろうとすると、
ふと、あの老婆が私の視界に入った。

またベンチに座っている。
老婆もこちらに気がつくと、ゆっくりこちらに近寄ってきた。

何?またお金?逆に返してほしいんだけど。



老婆を見るとあの時の恥ずかしさと苛立ちが蘇ってきた。



こちらからも歩み寄っていくと、
老婆はこの前とは違うハキハキとした口調で声をかけてきた。

「あなたを探しておりました。
 この前はどうもありがとうございました。ご迷惑をかけてすみません。
 あの時はこのまま死んでもいいかなと思いながらも、恥ずかしながら最後に目が合ったあなたに声をかけて。
 あなたのおかげでご飯も食べれて、少し元気になりました。
 小金でも稼げるような仕事を見つけて前向きに生きようと思います。
 まだあのお金を返せないのですが、もし連絡先や手段があればお返しさせて下さい。」

老婆が軽く頭を下げる。

私はすかさず言った。

お返しは大丈夫ですよ。元気になったなら良かったです。お身体に気をつけて下さいね。

私は笑顔でその場を後にした。



ふと我に帰る。

私、もしかして無意識にまたドッキリを気にしてたのかな?

そう思いながら、歌練をするために足早に駅へ向かった。

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